蔵〜其壱

俺は狭山尊(たける)。地元の名士と言われるこの高来家の当主の秘書をしている。
親父の代から仕えているためか当主の信頼もかなり厚いと自負している。だからこそ、こうしてこの広大な高来家の屋敷に住んでいられるのだからな…
当主には息子がいる。寛弥という。寛弥の母親、つまり当主の妻は寛弥が十一の時に亡くなったという、そして高来家の長男も後を追うように亡くなったということだ。
そんなわけでこの家の家督は次男の寛弥が継ぐ事になっている。寛弥は名士の息子ということを鼻にかけたりはしない気さくな性格で地元の連中からも慕われている。すこし世間知らずのところはあるが俺もこいつのことは悪くは思っていない。こいつの代になっても秘書として上手くやっていける自信はある。
当主は裏ではかなりの汚い事をやっている。もちろんそうでもしないとこの高来家の莫大な財産は築き上げられなかったのだろう。俺は数多くのそれに加担してきた。もちろんそれなりの報酬も…
しかしそんな当主にもさすがに天罰が下ったのだろうか?彼は不治の病の床についた。おそらくそう長くは持たないだろう…
ある日俺は当主の部屋に呼ばれた。俺は大体予想していた、当主は自分が亡き後の汚れ事の後始末を頼むのだろうと…
案の定話の内容は予想通りだった。一連の後始末の要領を俺に伝え当主は「寛弥を頼む…」と力無く言った。
暫らくの沈黙の後、当主はゆっくりと語りだした…
「それから…狭山君…君だけには言っておく必要がある…いや…君に譲りたいものがある…」
俺は息を呑んだ。隠し財産でもあるのだろうか?一体何を俺に譲ってくれるというのだ?

当主は鍵を俺に渡してくれた。隠し金庫の鍵か?俺は何も言わずにその鍵を受け取った。「その鍵は…とある蔵の鍵だ…君も知っているだろう?私が毎晩のようにそこに足を運んでいる事は…」
当主の言葉に俺は頷く。ほぼ毎晩どこかに抜け出している事は気がついていた、しかし蔵の存在までは知らなかった、そう話すと、そうか…と、その蔵の場所を教えてくれた。広大な高来家の庭の奥、隠れるようにひっそりと建っている蔵の存在を。
元々は祖先が座敷牢として建てたものらしい、その蔵の存在を知っているのは今は当主だけだということ、息子の寛弥ですら知らないということ、そして俺はその蔵を知る第二の人間になったということ…かいつまむと当主の話はこんな感じだった。
「それで…その蔵には一体何が…」
俺はなるべく冷静に当主に尋ねた。もの欲しそうな物言いではあまりにも浅ましかったから。
「私の…宝…」当主はウットリとした目をしてこう答えた。
宝!俺は小躍りしそうになった。やはり隠し財産だったのか!
「…そこに何があるかを君の目で行って見てきてくれ…そして…それの処分は君に一切を任せる…」
歓喜に舞い上がる俺だったが、扉を叩く音に我に返った。扉を開けると使用人が食事を持ってきた。「旦那様、お夜食でございます。」
有難う、そこに置いておいてくれ、そう言って当主は彼女を下がらせる。
 俺は正直驚いた。見る影も無くやせ細っているこの当主が夜食…?朝昼夕の食事をまったくと言っていいほど口にしなくなったこの当主でもやはり真夜中には腹が減るのだろうか?
「…狭山君、蔵に…これを持っていって欲しい…」
俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。蔵に食事を?一体どういうことなんだ?
訝しげな俺を見て当主は悲しげに言った。
「もう、三日も顔を出してあげていない…可哀想に…」
俺はドキリした。まさか、この当主は蔵に何か飼っている?
動物なのだろうか、とても獰猛な虎とか?それならそれでいい、後始末は任せると言われたのだ、動物園に売るなり、剥製にするなり金になる方法はいくらでもある。
当主は俺の考えを見透かしたように薄く笑った。
「大丈夫だ、君に危害は加えないよ。」
やはり動物を飼っていたのだな…俺はそう確信し当主に言われた蔵へと向かった。

こんなところにこんなものがあったなんて…蔵は本当に人目につかない場所に建っていた。
当主に渡された鍵で蔵の鍵を開ける。ガチャリと重たい金属音がした。俺はゆっくりと軋んだ音をたてるその扉を開けた…
蔵の中は思ったほどかび臭くはないが真っ暗だった。どんな生き物がいるんだ…俺は少しの不安を抱えながら持ってきたランプに火を点す。
辺りが明るくなった。俺は慎重に辺りを見回す…蔵の中は鉄格子付きの部屋になっていた。
その時俺の目に飛び込んできたのは真っ赤な襦袢だった。人…!?まさか…!?
俺は慌てて鉄格子の鍵を開け中に入り横たわるその人影にそっと近づいた。襦袢からはみ出た足は白く艶めかしい…
女?当主はこの蔵に「女を飼っていた」というのか!?当主の常道を逸した行為に戸惑いながら俺はその真っ赤な襦袢からだらりと垂れた手に触れてみた。
ゆっくりとその人影がこちらを向く…朦朧としたその顔は…男…だった…

一体何がどうなっているだ?俺は混乱した。当主は女ではなく男をこの蔵に「飼って」いた…男…といってもこの「男」はその辺の女なんかよりずっと美しい…透き通るような白い肌…漆黒の艶やかな髪…はだけた襦袢から覗く薄い胸板…そして何よりも身体全体から漂うこの艶めかしさは何だ?
俺は男相手に欲情しそうになった。手を震わせそっとその身体に触れようとした時、当主の言葉を思い出した。「もう、三日も顔を出してあげていない…可哀想に…」
もしかしてこいつは三日間飲まず食わずなのか!?いや、水はあるようだ、蔵の奥に大きな樽があり、その中を覗くと水が入っていた。もう殆ど底を尽きかけていたけれど…
おそらくこの水で飢えをしのいでいたのだろう…可哀想に…俺も当主と同じ言葉を呟いていた。

「食えるか?」
俺は男の身体を起こし持ってきた食事を与えた。男はゆっくりと口に入れ少しずつ嚥下していく…その姿でさえ欲情させられる。
長い時間をかけて食事が終わると男は安心したのか俺の肩にもたれ眠ってしまった。
俺は改めて蔵の中を見回した。確かに座敷牢ということだけあって頑丈そうだ。人の近寄らないような場所に建っているし、これでは逃げようにも逃げられない、助けを呼ぶにも誰もこないだろう。
一応人間らしい生活は出来るようだ…用を足す場所も設置されているし、水もある、向こうにあるのは風呂代わりの桶か?そして何よりも驚いたのはこの中にある膨大な数の書籍だった…
当主は一体どこでこの男を拾ってきたのだろう?男娼を身請けでもしたのか?それにしてもココまでの男娼はそう滅多にはいない…確かに「宝」だな…
そう思いながら眠る男の顔をみた俺はふと引っかかるものを感じた…この男の顔…誰かに似ている?
暫らくして男は目を覚ました。「ん…」と小さく呟きゆっくりと目を開ける。
そして今更ながらに俺の顔を見て少し驚いたように言った。
「…お前は…誰だ?」

じっと見つめられ俺はどうしていいかわからず顔を逸らす。
「俺は…狭山、狭山尊…っていうんだけど…」
俺の名を聞いた男はフッと小さく笑って言った。
「あぁ…」
俺のことを知っているのか?…まぁ、おそらく当主が話したのだろうけど。
だったら俺だってこいつの事を知る権利はあるだろう、何といっても当主から「譲り受けた」んだから…
「そういうお前は誰なんだ?なんでこんなところに閉じ込められているんだ?」
聞きたい事は色々あったが、とりあえず俺は一番聞きたい事だけを選んだ。
しかし、その男は「いずれわかるさ…」と言って敷いてある布団に潜り込んでしまった。
「明日もまた来るだろう?俺を譲り受けたんなら…」
そう一言言ったきり男はそれ以上何も語らなかった。
結局、これ以上居ても仕方ないと思い、俺は空の食器を持って蔵を後にした。

俺は戻りながら当主に何から問い詰めたらいいのか考えていた。「譲られた」ものの正体を…
しかし、屋敷に戻ってみると大変なことになっていた。当主の容態が急変したのだ。
医者が呼ばれ、使用人たちがバタバタとせわしなく動き回る。息子の寛弥もずっと当主の傍につきっきりだ。もちろん俺だって、そんな話どころではない、せわしなく外部との連絡に遁走し気がつくと夜が明けていた。
明朝早くに当主は息を引き取った。あっけないものだ…俺は泣きじゃくるばかりの寛弥の代わりに通夜の準備を仕切り、気がつくと夜も十二時を回っていた。
俺は近くにいた使用人に「腹が減ったから何か作ってくれ。」と握り飯を作らせ、それを持って再度あの蔵に向かった。
昨日は気がつかなかったが蔵の横には井戸があった。飲み水はここから補給していたんだな…俺は昨日樽の中が空っぽになりかけていたのを思い出し井戸から水を汲んだ。
蝋燭の仄かな光の中で男は本を読んでいた。身にまとう赤い襦袢の下は何もつけてはいない…俺は思わず喉を鳴らした。
「随分遅かったじゃないか…」別段怒る風でもなく静かに男は言った。
「…通夜だったからな…」食事を彼のところに置き、汲んできた水を樽に移しながら俺はそれだけを言った。
「…通夜?……そうか…あの人は…もう居ないのか…」男は呟きながら息をスゥッと吐き出し目を閉じた…
「おい、改めて聞くけど、お前は何者なんだ?」俺はもう一度昨日と同じ質問をした。「…あの人から聞いていないのか?」しかし逆に質問返しされてしまった。
当主に聞こうと思っていたが既に意識がなくなっていた…と俺は簡単に事情を説明する。だから、お前の口から説明して欲しいと。
しかし男はそれには答えずいきなり俺に抱きつき顔を寄せこう言った。
「俺も俺なりにあの人の弔いがしたい…」
至近で見る顔は見事なほどの麗しさだ…そして俺の首筋に這わす舌の動き…腰に廻された手…そしてその手はやがて俺の中心に…
もう我慢が出来ない…俺はそのまま男を押し倒し自分の欲望をさらけ出した。

三ヶ月余りが経った…俺は毎晩あの蔵に食事を持っていき、ほぼ毎晩のようにあの男を抱くけれど、結局何も解らないままだった。
それでも昼間は仕事をしなければならない。さしたる心の準備も無いまま当主に収まってしまった寛弥に色々と教えながら。
「あ〜あ、ここに兄さんが居てくれればな…」書類の山を前にうんざりしたように寛弥が愚痴をこぼしている。
「兄さん…って、十年くらい前に亡くなった?」寛弥が兄の話をするのは珍しい。
「すごく頭良くってさ、俺なんか全然勝てないんだ。」俺は黙って話に耳を傾けていた。
「…帰ってこないかな…」ポツリと寛弥が呟くように言った。
「帰って…って、もう亡くなっているんだろ?」俺は寛弥が家族を亡くし独りになった寂しさからそんな事を言っているのだと思った。
俺の言葉に寛弥は暫らく黙り込んだ後…驚くべき事を口にした。
「兄さんは…死んでない。神隠しにあったんだ…」
「神隠し?」あまりにも突然の寛弥の言葉に俺はなんと返していいのか分からない。
「母さんが死んで、しばらくしてから突然居なくなったんだ…」
母を亡くしたばかりの上、大好きだった兄までもが突然目の前から姿を消した…当時の寛弥にとっては相当の衝撃だったようだ。
結局、世間体を気にする父さんの意向で地元の連中には亡くなったということにして、家の中でも兄さんの話題は触れちゃいけなかったんだ…ずっと、本当は一日だって忘れちゃいないのに…そう言って寛弥はその話を途中で打ち切った。
寛弥の話を聞き俺はある考えが頭に浮かんだ…まさか?
あの顔をどこかで見たことがあると思ったのは、寛弥に似ていたからではないか?
亡くなった、否、神隠しにあったという寛弥の兄…確か寛弥より二歳上だ…あの男の年齢もそのくらい?
俺はいてもたってもいられなくなり、寛弥に頼みこみ兄の写真を見せてもらった。
写真の中、楽しそうに笑う寛弥の横で静かに微笑むその顔は…紛れもなくあの男の顔…だった…

「……お前は…玲弥…なのか?」
恐る恐る俺は聞いてみた。十年前に神隠しにあったという高来家の長男、玲弥か…と。
男はただ黙って微笑むだけで否定はしなかった。
「だとしたら、なんで神隠しにあったはずのお前がこんなところにいるんだ?」
もしそうだとしたら玲弥は十年もこの蔵に閉じ込められているという事になる…一体何のために?
狂人を隠すという事は名家にはよくある話だが、目の前の玲弥はとてもそんな風には見えない。それともやはりどこか狂っているのか?
「そんなに知りたいんなら話してやろうか?」微笑みを絶やすことなく玲弥が言った。「寛弥はどちらかというと父親似だが、俺は母親似だった…」
寛弥、という言葉に少し懐かしそうな目をして玲弥は語りだした。

母が亡くなり、父は半狂乱になった。よっぽど愛していたのだろう…
彼は自分の妻がもうこの世にいないという事実を受け入れることが出来なかったんだ…
母が亡くなって…半年…くらいかな…ある日俺は父の書斎に呼ばれた…
もうその時から父はまともではなかったんだろう…俺を…実の息子を陵辱した…
母の名前を呼びながら…な…

俺は玲弥の話に息を止めた…これ以上聞いてはいけないような気がしてその場を去ろうとした。しかし玲弥は最後まで聞け…と俺を引き止めた。

その後も何度も父の書斎で俺は犯され続けた…でも我慢した…
何故かって?俺が逃げれば次に父は寛弥を…そう思うと逃げられなかった…
やがて独占欲が激しくなった父は俺を連れ出してこの中に閉じ込めた…
そして毎夜毎夜母の名を呼びながら…俺を…

「もういい!」俺は堪らず叫んだ。
玲弥が終始微笑みながら話すのをもう見てはいられなかった…

…俺は涙を流していた…
今までさんざん非道なことをしてきても涙の一つも流さなかったこの俺が…
十年間も実の父親に監禁され亡き妻の身代わりに陵辱され続けていた…そんな玲弥を思って…
「お前のこと思うと…」俺はそれだけ言うのがやっとだった。「俺の為に泣いてる…?」玲弥がクスクスと笑いながら俺を覗き込む。
「何で笑ってるんだよ?泣けばいいだろ?辛かったろ?」俺は堪らず玲弥を抱きしめた。「もう、終わったんだよ…全部…良かったな…」
そして俺の肩に黙って顔を埋める玲弥の背中をあやすようにそっと撫でた。
やがてその背中が小刻みに震える…玲弥は声もあげずに泣いていた。

「…を…よう」
「ん?」俺の言葉が聞き取れず玲弥はもう一度聞き返す。
「ここを出ようぜ。帰るんだよ、玲弥。」
お前の父親からお前のことは一切任されてんだ、だからもうこんなところにいる必要はないんだぜ、そう言いながら玲弥を促すが玲弥は静かに首を横に振る。
「無理だ…今更戻ったところで一体何になる?俺は死んだことになっているんだろ?せっかく寛弥が当主として納まった家にいまさら波風立てる必要もないし…それに…」
一呼吸置いて玲弥は言った。
「こんな淫乱な兄を寛弥には見せたくない…」
だから俺はずっとこの中にいなければならないんだ…玲弥は寂しそうに笑った…
「どうしてなんだ?何故お前は自分のことよりもまず弟なんだ? もういいかげんにしろよ、自分を犠牲にするのは!もうお前が自分の好きなように生きたって誰も咎めない。寛弥だってお前が死んだなんて思っちゃいない、ずっと待ってるんだぜ、お前が帰ってくるのを…お前だって本当は会いたいんだろ弟に。…安心しろ、何かあったら俺が…玲弥を…守るから…」
自分で言っておいて顔から火が出るくらい恥ずかしい科白を俺は吐いていた。でも本心だ。「俺…を?」戸惑うような玲弥に俺は更に続ける。
「そうだよ、他の誰でもない、『玲弥』をだよ…」そう言って俺は静かに玲弥に接吻し、そのまま絡まりあいながら玲弥の名を呼ぶ…
「…俺の名前を…呼んでくれるんだな…ありがとう…尊…」
玲弥が初めて俺の名前を呼んでくれた…照れくさいような嬉しいような気持ちの中で俺はこの「宝」を大事にしたい、いつまでも…そう誓いながら玲弥を抱いた。

陽の光は怖いから、夜明け前にここを出たいと玲弥は言った。
長い距離を歩くのは酷だろうと俺は玲弥を背負った。玲弥の身体の軽さが切なかった…
屋敷に近づくにつれ玲弥の怯えが俺の身体に伝わってくる。「大丈夫だから…」宥めるように俺は何度も繰り返す。
ふと思った、もしかしたら前当主が玲弥のことを俺に託したのはこの為だったのではないか?…自分では終わらす事の出来ない狂気を俺に終わらせてもらいたくて…
「尊、ここで下ろしてくれ…この中には…自分の足で入りたいから…」と、玲弥は誰にも気付かれないようにそっと屋敷の扉を開け中に入った。小さな声で「…ただいま…」と言いながら…
やがて空が白みだした頃、玲弥は今まで見たこともないような穏やかな笑みを俺に向けてそのまま眠りについた。

次の日、俺は何とか上手い理由をつけて取り繕い、寛弥を玲弥に引き合わせた。
「兄さん?…嘘じゃないよな?」寛弥の声はもう震えていた。
玲弥はまだ寛弥に対するためらいがあるからなのか黙って頷くだけだった。
しかし、寛弥はそんなことなど知る由もなく素直に玲弥に抱きついてきた。
「もう、どこにも行かないよな、兄さん…」すでに声は涙声で掠れている。
玲弥はそっと寛弥の髪を撫でていた…

「神隠し」にあっていた間のことは「記憶喪失」ということで周りには説明しておいた。これは俺と玲弥だけの絶対に誰にも言ってはいけない永遠の秘密…
玲弥は日中を殆ど屋敷の中で過ごす。少しずつ陽の光にも慣れてきたようだがまだ外には出たくないらしく、寛弥が誘っても何かと理由をつけて断る。それでも穏やかに日常は過ぎていった。

「尊…」椅子に座り本を読んでいた手を休め玲弥が俺に話し掛けてくる。
「どうした?玲弥」
何も言わずにじっと俺を見つめる玲弥に俺は黙って頷く。
深夜、屋敷の人間が寝静まった頃、俺たちは蔵に向かう…
これが誰も知らない俺たちだけの新しい秘密…

ランプに火を点すと辺りは明るくなった。
玲弥はこの方が気分が盛り上がるから…と、いつも素肌に赤い襦袢を纏っただけの姿でここに来る。
本音を言うと俺はその姿が悩ましくて欲情する…はだけた襦袢から覗く玲弥の白い胸元、手、足、そして首筋…初めて見たときから俺はずっとこの身体の虜だ…
玲弥が俺の衣服を一枚一枚剥いでゆく、その間俺はその白い首筋にそっと舌を這わす。玲弥の息遣いが少しずつ荒くなり、やがて俺は一糸纏わぬ姿になる。
俺は玲弥の襦袢を脱がすことをせず、そのままはだけた胸元に舌を移す。
硬くなっている胸元の果実のような部分を舌で優しく転がすように嘗め回す…それだけで玲弥は甘い声をあげる。
俺の手は玲弥の茂みを弄り、その中に潜むものに辿り着く。そっと触れただけでもう過敏に感じているそこはみるみる膨らんでゆく…
俺の与える甘美な刺激に身悶えしながら玲弥はその可憐な唇に俺を咥えこむ。その巧みな舌に俺は一瞬にして絶頂に導かれそうになる…しかしその一歩手前で玲弥は粘つく糸を引きながら俺から唇を離す…絶頂は自分の中で…そう言いたげに…
 焦らされたような状態で俺は玲弥に乗りかかり、待ち構えているその部分に指をそっと差し込む。丁寧に指を動かしながら玲弥の中をかき回す…
「…尊…はや…く…」玲弥が俺を急かす。
「もうちょっと…だから…」そう言って俺はそこから指を離し玲弥の耳元で囁く。
「準備は…いいかい?玲弥…」
名前を呼ばれ、玲弥はウットリと目を閉じて頷く…ほんのりと紅く上気した顔で…
その顔に俺は興奮し、益々そそり勃ってきた昂ぶりで玲弥を貫いた。
玲弥の嬌声が響き渡る…俺は更に奥まで貫こうとする、その度に玲弥のその部分はきつく俺を締め付ける。その刺激に俺も堪らず声をあげる…
「…玲弥っ…」腰を動かしながら俺は何度も玲弥の名前を叫ぶ。
「尊っ…あぁっ…」それに答えるように玲弥も俺の名を喘ぐように繰り返す。
俺は玲弥の望むその中に自身の絶頂を受け入れさせた…

屋敷に戻る道をゆっくりと俺たちは歩いた。ふいに玲弥が空を見上げ呟くように言った。「…俺は…蔵の小さな窓からいつも月を見上げてたんだ…だからかな…太陽の光より月の光の方が安心できる…」
俺はなんだか泣きそうになり、照れ隠しのようにそっと玲弥の柔らかな唇に接吻をした。

    戻る。