壁の中にいる!-1-

絶体絶命のピンチ
もうこうなったらあの魔法使うしかない
禁断の術、成功するかどうかは一か八か
それでも僅かな可能性にかけるしかない
少なくともこのままではパーティ全滅だ

意を決して魔術師は術を唱えた
果たしてまだ未熟な彼にこの術を上手く使いこなせるのか…

衝撃と共に身体が凄い力で引っ張られていく
テレポートの威力がここまでだとは…
あまりの衝撃に術者本人すら意識を手放した

気がつくとそこは見慣れない部屋
暗くじめじめとした空間の中、魔術師は意識を取り戻した

やった、成功だ!
喜び勇んで歩き出そうとした魔術師は
そこで初めて己の異変に気がつく
身体が…動かない…
彼の身体、いや正確には手足が壁の中にめり込んんでしまっているのだった
…失敗…したんだ…
先ほどの歓喜から一転彼は絶望の渕に立たされた
テレポートの術は熟練者をもってしても成功率が低い
成功すれば安全な場所に瞬間移動できるが
それでも場所は選べない
下手をするとモンスターの巣窟に移動してしまう悲劇もある
さらに最悪の場合は
座標軸が本来ありえない位置、つまりは壁の中に設定されてしまい
一瞬にして全滅ということすらありえるのだ

魔術師のおかれた状況は、半分壁の中というある意味最悪以上の状態だった
他の仲間は…と辺りを探っても人の気配が無い
おそらくは自分以外の仲間は壁の中に移動させられてしまい
命を落としてしまった…そう考えるのが妥当だった

みんな…ごめん…
己の未熟さに魔術師は涙した

と、その時ギギギと扉の軋む音が聞こえ真っ暗な部屋に僅かに灯りが差し込んだ
人が来た?ここは誰かの家の中なのか?
それともモンスターの棲家?

前者なら…一瞬希望をもちかけた魔術師だったが、
己の状態を冷静に考えてみた
どちらにしてもこの状態では生き長らえる方が難しい
いっそ後者なら、一思いに殺られてしまえば、仲間達のもとに逝ける…
全てを諦め魔術師は確実に己に近づいてくる影を見据えた

どうやら人間のようだ
安堵した魔術師はすぐに己の間違いに気がついた
それは人の形をしてはいるが人ではなかった
人にあらざる美しい容姿をもつそれは
青白い顔に鮮やかな金髪、そして真っ赤な瞳を持った人外の者
その口にははみ出した白い乱杭歯…
それはヴァンパイアだった

「なにやら物音がしたから起きてみれば、これはこれは…面白いオブジェがあるではないか…」
魔術師の憐れな姿を嘲笑うヴァンパイア
その視線から逃れようと不自由な身体で必死にもがく魔術師だが、どうしようもない
「もう少しじっくり見てみようか」
そう言ってヴァンパイアは長い爪で瞬く間に魔術師の纏っているローブを切り裂く
「…やめ…ろっ…」
魔術師は言葉で抵抗するも、なす術も無く生まれたままの姿をヴァンパイアに晒される羽目になる
ヴァンパイアは更にその爪を魔術師の首筋から乳首、そして彼の肉棒にかけてツッ…となぞっていく
ただ身体をなぞられているだけなのに、魔術師の全身は例えようも無い程の感覚に襲われた
今迄感じたことのない快楽…
「…ほほぅ、なかなか良い身体をしているではないか…感度もいいようだな」
ヴァンパイアは可笑しそうに一笑するとおもむろに魔術師の萎えた肉棒をその口に咥えた
「ヒッ…」
魔術師は恐怖に身震いをした
ヴァンパイアは人の生気を吸い取るということは冒険者の端くれである魔術師にも判っている
どうこから、どのように、なんてことは判らなくても今の己の状況はどう考えても生気を吸い取られる以外に考えられない
どうせ生き長らえることなど諦めてはいる魔術師ではあったが
自分がどのようにこのヴァンパイアに甚振られ殺されてしまうのか、それを思うと身体の震えが止まらない
いっそ一思いに殺してくれ
そう願う魔術師の思いなど目の前のモンスターには伝わるはずなどないのだけれども…

しかしヴァンパイアの舌が魔術師の肉棒を軽く舐めたとたん
その恐怖は瞬時に快楽にとって変わられた
脳天まで突き上げる快感は
ヴァンパイアの持つ魅了の魔力にかかってしまったからなのか
それとも己の隠された淫乱な部分を奴に引き摺り出されたのか
「…はぁっ…ぅフゥ…」
今迄出したことのない喘ぎ声、まさか自分がこんな声を出すなんて…
羞恥に苛まれながらもとめどなく与えられる快楽に魔術師は次第に己の自我を失ってゆく

テレポートの術を唱えた時と同じように再び魔術師は己の意識を手放した
ただし今度は衝撃ではなく、快楽によって…

    戻る。